amarillon のブログ

宇宙科学や語学に関する本の紹介をしています。

読書記録:三つの石で地球がわかる 岩石がひもとくこの星のなりたち(藤岡換太郎 著)

2017年の本。著者は、地学に関する解説書を他にも数冊、ブルーバックスから出されている。

地球科学で現れる岩石・鉱物について大まかなことが知りたいと思い、読んでみた。

3つの石とは?

  • 本書のタイトルになっている「3つの石」とは、「橄欖岩、玄武岩、花崗岩」のことである。

  • 地球は水の惑星であるとともに、石の惑星でもある。

  • 著者はこの本を書いた理由について、次のように述べる。

私はブルーバックスで「山はどうしてできるのか」「海はどうしてできたのか」「川はどうしてできるのか」という三部作を書いています。これらには石のこともたくさん出てきます。・・・石そのものをクローズアップして書いたことがいままでありませんでした。そこで、地球史のなかで石を主役として位置づけて書いてみてはどうかと考えました。(「あとがき」より)

3つの石で地球がわかる理由

  • なぜ「3つの石で地球がわかる」と言えるかというと、地球の組成について次のようにまとめられるからである。

  • 地殻は、花崗岩と玄武岩からできている。

  • 核は、鉄とニッケルからできている。
  • マントルは、橄欖岩からできている。

すなわちこの惑星は、鉄、橄欖岩、玄武岩、花崗岩という同心円状の構造を呈しているのです。

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本書の構成

  • タイトルにある、3つの「かんらん岩」「玄武岩」「花崗岩」の3種類にそれぞれ1つの章を割り当てている。

  • 第4章では、岩石の化学的な話。

  • 第5章では、3種類の石がつくる地球上の様々な地形について。

  • 第6章では、地球が誕生してから最初の6億年「冥王代」に、地殻や空、海が形成されていったようすを描いている。

  • 「終章」で、堆積岩や変成岩を取り上げている。

小藤文次郎について

  • 岩石の名前には他で使わないような、珍しい漢字を使ったものが多い。閃緑岩、斑糲岩、橄欖岩、花崗岩など。

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小藤文次郎

  • 本書には、「岩石の日本語名を考案した人物」として、明治時代の岩石学者である小藤(ことう)文次郎が時々登場する。

  • 東京帝国大学地質学教室の初代日本人教授。

  • 島根県の生まれで、ドイツ留学した。

  • 小藤文次郎の漢字に対する感覚、教養の深さに思いを致した。

本書のレベルについて

  • 地学の一般書は火山・地震などの身近な地球現象を扱う本が多いが、本書はより科学的に「石」「岩石」「鉱物」の性質を解説した本だといえる。

  • 中盤では、化学的な説明や、図が出てくる。「共有結合」「結晶構造」など。

  • レビューしている私は、化学・鉱物をちゃんと勉強したことがないため、中盤の第4章は難しく感じた。

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  • 第4章以外については、世界各地の地形を例にだして写真つきで解説してくれていて、予備知識がなくても楽しく読めた。

  • 全般的に、中学理科の岩石分野を勉強した程度の経験があれば、問題なく読めるのではないかと思う。

感想・印象に残った点

「ボーエンの功罪」について

  • ノーマン・ボーエンとは、米国で1920年代に活躍した岩石学者。

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ノーマン・ボーエン

  • 著者は、中学地学で学習する「結晶分化」を解説するときに、次のように言う。

中学校で教えているこのような結晶分化は、きわめて単純化されたモデルです。実際には造岩鉱物の融点はマグマの組成によっても、含まれている水の量などによっても違ってきますので、造岩鉱物が晶出してくる順序はまちまちです。・・・こうした結晶分化のモデルを考えたのは、すべての岩石はただ一つの起源をもつという「本源マグマ」の考え方を提唱した、米国カーネギー地球物理学研究所のボーエンです。・・・

このようにボーエンの考えはいまでは古くなってしまった点が多々あるのですが、中学校の理科ではいまだに、この古典的ともいえる結晶分化のモデルが教えられているというわけです。

・・・しかし本書では、それらを呑み込んだうえで、あえてこのモデルを紹介することにしました。・・・本書は石に興味をもった人が初めて読む本、もしくはこれを読むことで石に興味を持っていただく本というつもりで書いていますので、厳密さよりも大づかみなイメージを大事にしたいのです。

  • 自分が中学校の地学で習った内容は、「ボーエンのモデル」という、現在では簡略化された大ざっぱな考え方に基づいていたのだと知った。中学生時代に、地学という学問の入り口を勉強していたのだなと思い、興味深かった。

海底から高山への、石の長い旅

「堆積岩」のひとつ、石灰岩の来歴について述べた最終章が印象に残った。

石灰岩は、地球史においては数奇な運命をたどっている石です。熱帯や亜熱帯の、火山島の周辺にできたものが、深い海へと沈降し、プレートによって何千キロも移動し、やがてプレートもろとも海溝へ沈み込んでいきます。ところが、プレートが大陸に衝突すると、海溝にたまった堆積物がプレートによって陸側に押しつけられて乗り上げてできる付加体に 入り込んで、ついに陸上へ顔を出し、エベレストなどの高山に押し上げられることもあれば、陸上の雨水によって新色されて鍾乳洞を形成することもあります。こうしたダイナミックな旅路を、1億年以上もかけて経てきているのです。

長い時間のなかで移動してきた石。海底・海溝・高山を旅してきた石。そうやって山を見ると、新しい感慨が得られる。

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  • 終章で「石が少しずつ進化をしていく可能性」についてSFチックな話題も取り上げられている。永久に変わらないと考えていた石が、変わっていくとは不思議。

おすすめの読者

  • 石・鉱物の入門的な解説を読みたい人。

  • 中学校の理科で扱う地学分野の知識が少しあれば読みやすいと思う。

  • 化学が苦手な人は、中盤を流し読みして、最初と最後の章だけ読むこともできると思う。

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まとめ

  • 地球の石・鉱物について解説した本。

  • とくに、橄欖岩、玄武岩、花崗岩の3つに焦点をあてて説明している。

読書記録:英文法の楽園 (里中哲彦 著)


英語に関する短いQ&Aを、100個程度まとめた本。

著者が2012ー2013年に「東京新聞」と「中日新聞」で執筆した、「英語の質問箱」というコラムがもとになっている。

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著者について

著者の里中氏は、英語関連の新書をいくつか出している予備校の先生。

以前にこのブログで、同じ著者による「英文法の魅力」という本を紹介した。

inu123.hatenablog.com

質問者のプロフィール

それぞれの質問には、「18歳・男子高校生」や「77歳・女性」といった「質問者」がおり、それらの質問に対して著者が回答する、という体裁で書かれている。

面白かった項目

本書の中で次のような項目が興味深かった。

  • 002「髪を洗う」や「髪を染める」を(中略)複数にしないのはなぜですか?

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  • 004 総称表現 あるものを総称して「〜というものは」というとき、the+名詞 でも a/an + 名詞 でもあらわすことができるということを知りました。それぞれの使い方を教えてください。

  • 031 英語では、どうして furniture (家具)や money (お金)が「数えられない名詞」になるのですか?・・・

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  • 040 物語の最初でいきなり this man という表現が出てきました。どういうことですか?

  • 058「授業をサボる」は?

  • 096.英語の授業のおしまいで、先生が So much for today. (きょうはこれでおしまい)というのは間違いだと聞きました。

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  • 104 英文を読んでいると、コロン(:)やセミコロン(;)がよく出てきますが、この2つの違いは何ですか?

これらの項目が、個人的に面白かった。

英字新聞の表現

075.英字新聞のヘッドラインには見慣れない動詞がたくさんあります。これには理由があるのですか?

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これに対して著者は次のように答える。

見出しは、一瞬にして人の目を引かなくてはなりません。・・・そこで、おのずと動詞も短くて使い勝手のいいものが重用されます。

そして、この回答では、「新聞ニュースの見出しでよく使われる重要単語」のリストを掲げる。

  • ban
  • oust
  • loot
  • accede
  • covet
  • curb

などなど。

そして、

・・・これだけ覚えるだけでも、だいぶ違うはずです。

という。

このような親身な解説のおかげで、本書を読むことにより語彙増強を効率よく行うことができる。

感想

  • 全体的に記述が親切である。

  • 英語の例文が豊富に掲載してあり、英作文の勉強をする際に便利だと思う。

  • 「古くなって現在では会話であまり使われない用法」は、その旨が書いてあって勉強しやすい。

おすすめの読者

  • 本書のレベル感としては、高校英文法を一通り勉強した経験があれば問題なく読めると思う。

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  • 中学英文法の知識だけだと難しいと感じるかもしれないが、難しいと思ったらその項目は飛ばせば良いので、英語を学ぶ人全般におすすめできると思う。

  • 里中氏が出している他の本も、読むと英語の勉強になるでしょう。

まとめ

  • 英文法に関する質問・解答を集めた本。

  • 本書の構成は著者のほかの本と同じ。例文が平易でわかりやすい。

  • 日本人目線に立った丁寧な解説がされる。ネイティブスピーカーの見方も数多く紹介されており、ためになる本。


読書記録:英文法の魅力(里中哲彦 著)


英文法について、105個という数多くの項目をとりあげて、それぞれ簡潔な解説をつけた本。

本書の内容

東京新聞・中日新聞の「英語の質問箱」というコーナーがあり、そこに2010年から2012年まで掲載されたコラムの内容をもとに加筆して作られたという。

本書は、狭い意味での英文法の解説書というよりは、いろいろな個別の単語の用法・用例についても書いてある。

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英単語の由来を説明している場所もたくさんある。

日常生活で使いそうな単語をまとめて紹介しているところもあり、英会話の勉強に役立ちそうでもある。

たとえば、「パンの耳」の項目で、

  • パンの耳

  • パイの皮

  • 卵の黄身、白身

など食品の英訳を一緒に紹介していたりする。

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スパムメールという単語の由来も載っていた。

例文はどれも難しい単語を使っておらず、いずれも短い例文が採用されているので読みやすいと思う。

面白かった項目

本書の中から、いくつか参考になった項目を紹介。

45.「〜関係の仕事に就いています」とあいまいにしたい場合はどう言えばいいのですか?

「〜関係の仕事に就いています」は、I'm in ... と言えばいいでしょう。 ... I'm in international trade. 貿易関係です。I'm in advertising. 広告関係です。・・・

57.デパートなどの「紳士服コーナー」を英語ではどう表現するのですか?

デパートや、スーパーの売り場のことをわたしたち日本人は「コーナー」と言っていますが、英語では department という単語であらわします。corner は「曲がり角・片隅」で、まったくつうじません。・・・department の部分は、groceries section (食料品売り場)/cosmetics section(化粧品売り場)のように section (部門・セクション)を使うこともあります。・・・

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70.「よろしくお願いします」場面に即した言い方を

・・・日本語には便利な言い回しがあたくさんありますが、英語にはそうした決まり文句はありません。なかでも「これからもよろしくお願いします」はその最たるものでしょう。ですから、英語にするときは状況に応じて表現を変えなくてはなりません。・・・

本書によれば、「よろしくお願いします」を英語に言い換えるにはいろいろな方法がある。

  • 「またお会いできるのを楽しみにしています。I look for ward to seeing you again. 」

  • 「今後ともおつきあいください。I hope to see more of you. 」

  • 「連絡を取り合いましょう。Let's keep in touch.」

などなど、状況によって様々な訳し方を紹介している。

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このような話が100個以上載っているので、英語の言い回しを覚えていきたい人にオススメできる本だと思う。

著者の蔵書

そんな著者はどんな勉強をしているのだろうか。

053.の「気づかない引用句」の内容から、

著者は

英語の場合は引用句辞典(dictionary of quotations)が豊富で、必要にせまられて、私も50冊ほどの引用句辞典をもっています。

とあった。辞典を50冊も持っているなんて、すごい。

著者について

  • 著者は、コラムニスト・翻訳家。

  • 本書のほかにも、英語に関する新書を数冊出されている。読んでみたい。

おすすめの読者

  • 英語力をアップさせたい人。

  • 日常会話のさまざまな表現を身につけたい人。

  • 表現・例文集として、英語初心者から上級まで幅広くおすすめできる。

まとめ

  • 英文法を学ぶときに、多くの人が疑問に思う項目について文化・語源・歴史などの関連から解説している。

  • 105の項目それぞれが短く、例文もシンプルで理解しやすい。

  • いろいろなレベルの英語学習者に適している本。


読書記録:5G 大容量・低遅延・多接続のしくみ(岡嶋裕史 著)

著者について

著者の岡嶋氏は、情報・ネットワークに関する解説書を多数出されている。

以前に、このブログでは同著者による「ブロックチェーン」の本を紹介した。

inu123.hatenablog.com

5G とは

携帯電話などで使われる通信規格の、2020年時点での最新版が「第5世代のサービス」という意味で「5G」と呼ばれる。

本書の特徴

  • 移動通信システムの第一世代から、歴史をたどるようにして解説していくところが本書の特徴。

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  • 著者はあとがきで次のように書いている。

(書き始めた)最初は「5Gはこれだけすごい」という本になるかと思いました。・・・ところが、書き進めていくと、1Gや2Gと比較しないと、なかなかすごさが伝わりにくいのでは、と考えを改めることになりました。・・・そこで、1G、2G・・・と、何が変わって、何が長じたのかを振り返ることにしました。

本書の構成

第1章

「携帯電話がつながるしくみ」として、次のような通信用語について解説している。

  • 移動体通信事業者のコアネットワーク。

  • 閉域IP網。

  • ホームメモリー、

  • ローミングとハンドオーバー。

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第2章

携帯電話の世代について。

  • アナログ→デジタル変換の標本化と量子化。

  • サンプリングレートと、ビットレート。

第3章

3Gについて。

  • ITU(国際電気通信連合)が1980年代から3G規格を決めていくようす。

  • 3Gの符号化方式。

第4章

  • スマートフォンの普及。

  • iPhone の登場により、「LTE」という規格が必要となった理由。

  • MIMO・QFDMA・QAMといった、LTE・4Gの技術。

  • WiMAX と MAN の関係について。

「MAN」が唯一、有意義に使われているのがWiMAXだと思うのです。LANであるWi-Fiと、WANである携帯電話の隙間を見事に埋める技術です。

第5章

5Gについて。

5Gとは、移動通信システムをスマートフォン以外のものへ開放する役割を持っていると言っていいでしょう。

高速大容量化・低遅延・多接続の技術により、スマートフォン以外のものがインターネットにつながるようになる。

  • エッジコンピューティング。

  • センサーネットワーク。

  • Qiなどの無線給電(ワイヤレス充電)技術。

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5Gの先にある6Gの条件として、著者は無線給電の重要性を強調する。

明確に謳っている企業はありませんが、個人的には6Gの要件として無線給電が必須だろうと考えています。それこそ、宇宙に機器を設置して、それを6Gのネットワークで結ぶならば、気軽に電池を替えに行くわけにはいきません。

第6章

通信技術が発展していった先に、どのような社会が実現するかについて著者の予測を述べる。

今後、企業は顧客のことを自分の体のように詳細に知ることができるようになると予測する。

世界中にセンサーを設置して、地球全体を感覚器官のようにすることは、企業という人体が世界を覆い尽くすことを意味します。いままで得体の知れない他者で、どうにかしてあの手この手で商品を売りつける相手であった消費者のことを、自分の体内と同じように知ることができます。

18世紀の哲学者ベンサムは「最大多数の最大幸福」という哲学のもとに「パノプティコン(全展望監視システム)」を構想した。

「パノプティコン型刑務所」の例である「プレシディオ・モデーロ」内部

最終章で岡嶋氏は、デジタル・通信技術の進化により今後「パノプティコン」的世界が実現していくのか?を論じている。

感想

  • 読者にネットワークの前提知識を仮定せず、基本から説明してくれている。かつ、最後には5Gの技術までたどりつけるように説明してくれるので親切な本だと思う。

  • 第6章で述べられているように、未来社会が、昔の哲学者ベンサムの「パノプティコン構想」とつながっていくようすは興味深いと思った。

おすすめの読者

  • 携帯電話がどうやってつながるのか?ゲートウェイとは? などの知識をつけていきたい読者。

  • 過去に使われていたLTE とは何か?4Gとの違いは?などを、知りたい人。

  • 5Gや、その先にある6Gによって、未来はどういう社会になっていくのか?著者による予測を読んでみたい人。

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  • 第4章までの通信技術の基礎に大して興味のない読者は、5Gと社会の関わりについて述べた第5章・第6章をメインに読むこともできると思う。

まとめ

  • ネットワークの通信規格である「5G」の解説書。

  • 通信技術の発展史から解き明かすことが特徴。

  • デジタル技術進化による、未来社会の予測もしている。

読書記録:見えない絶景 深海底巨大地形(藤岡換太郎 著)

著者は、地球科学研究者

著者は、日本の深海探査艇「しんかい6500」に何十回も乗船している。

また、ブルーバックスで地球科学の本を何冊か出されている。

大まかにいって、水深200mより深いところを深海というらしい。

地球の海は、ほとんどが深海ということになる。

深海の広さ

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これまで世界各国の潜水艇・調査船が1万回以上の深海探査をしてきたが、

海洋の表面積は約5億km2もあります。1回の潜航でカバーできる範囲はせいぜい1km2ですから、深海のすべてを調査するには5億回は潜らなければならないわけです。

本書の構成

第一章

仮想的な深海探査船「ヴァーチャル・ブルー」号にのって、日本から出発して東に向かう。

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読者が「仮想的な旅行」をするという設定になっている。

日本の三陸沖の深海探査中で、マネキンの首を見つけたときの「絶叫体験」が面白かった。

第二章

深海底の謎を科学的に解く。

深海には、地上では考えられないぐらいの大きさの構造(山や谷)が存在している。

なぜ深海底の地形はこんなにも巨大なのか?

第三章

太陽系・惑星の起源から、地球の形成、そして深海底の地形の起源の謎を解き明かしていく。

深海の謎

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  • ホットスポット

  • 深海大平原

  • 断裂帯というのがある。大きな崖。

  • マンガン団塊(深海の鉱物資源)

などなど、深海には探査がまだまだ進んでいない構造がたくさんある。

  • メガムリオン(海底の畝状の構造)の重力測定のところは、調査艇の中で測定中に息を殺すらしい。緊迫感が伝わってきた。

南海トラフについて

  • いずれ起きると考えられている大地震との関係で、多くの日本人が気になっているであろう南海トラフについても書いてある。

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南海トラフは、じつは研究するのが非常に難しい海溝でもあるのです。それは、黒潮のせいです。東シナ海から太平洋へと・・・流れる黒潮は、最大速度が約4ノット・・・というかなり強い海流です。潜水調査船は最大でも2.7ノットしか出せないので、黒潮の中では潜航調査は困難です。・・・

  • しかし、2005年の地球深部探査船「ちきゅう」が投入されたことによって南海トラフの研究が進められるようになったという。

感想

  • 飲食店などのインテリアとして、「海底地形まで書き込んだ地球儀」を見たことがあった。この形の理由に迫れた気がした。

  • ドラえもんで海底探検をする映画を思い出した。

  • 海底探査船に乗り込み、水深数千メートルの暗黒の海底を探査した経験をもつ著者。その著者の経験には、それこそ海のような「深さ」を感じた。

おすすめの読者

  • 海底地形に興味がある人。

  • 海底の火山活動や、ハワイ・チリなどの地学に興味がある人。

まとめ

  • 深海の地形の現状と起源を解説。

  • 山・谷といった海底地形の話がメインなので、深海生物の話は(カニの話などはあるが)それほど多くない。

  • 著者が深海調査艇に乗ったときの体験談も豊富に含まれており面白い。

読書記録:外国語上達法(千野栄一 著)

外国語上達法 (岩波新書)

外国語上達法 (岩波新書)

著者について

著者は、東京外国語大学の先生。

1932年生まれ、2002年になくなった。

チェコ語などの書物を書いている、スラブ学の学者。

本書は1986年に出版された本である。

外国語を学ぶ目的

どこまでその言語ができるようになりたいのか、学ぶ目的は何かをはっきりさせることが重要だと説く。

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印象に残った部分

必要のない部分まで外国語学習に時間を割くのは、時間のむだであるからやめたほうが良いという。

数多くの外国語ができる人でも、二つあるいは三つにすぎない。

私の知っている人に一二の言語をアクティブに話せる人がいるが、このひとはそれらの言語を忘れないように絶えず時間をきめて繰り返している。・・・週に一八時間が復習にとられることになり、こうなってはもう外国語学習のドレイとしかいいようがない。

つまり、数多くの外国語を学ぶことは「無駄」であるという面もあるので、外国語は各自にとって必要な量だけやるのが良いということである。

引用

必要でない言語を単に教養のためとかいって三つも四つもやることは、人生での大きなむだ意外の何物でもない。また、本を読んで内容が理解できればいい言語を書いたり話したりできるようにするのは、もったいないむだな努力なのである。

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学ぶ語彙の選択

本書では、語彙(ボキャブラリー)の学習の重要性が強調されている。

語彙を習得する上で、大事なことは「よく使う」語彙、つまり使用頻度の高い語彙を増やすということである。

最初の千語で平均六ー七◯パーセントの語が分かるようになり、このあとしだいにゆるい割合で九◯%に近づいていくのが普通である。もっとも言語によってはフランス語の話しことばのように千語で九◯パーセントを超すものもあれば、日本語のように一万語で九◯パーセントに達するような言語もある。

このように、使用頻度の高い語について優先的に記憶していくようにする。

あまり使われない言葉については「分からないときには辞書を引く」という態度で学習を進めていくことも重要だという。

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語学教師をやる人のためのアドバイス

「学生に疑われないための対策」

まず、自分がその日に教えることをあらかじめよく理解しておくことと、予想される質問に備えることである。・・・手に余る質問が出た場合は正直に知らない旨を伝えて、・・・次回に答えることを約束するしかない。このようにしてつなぎとめた信頼のほうが、できないことを糊塗しようとしていい加減に答えて失う信用よりずっと大きいことを教師は肝に銘じておく必要がある。

より授業の目安は受講者の数が多く、出席がよく、学習者の数が減らないことである。とりわけ、この最後の項が大切なのはいうまでもない。・・・

など、語学以外の教科を教えるにあたっても応用がききそうな考え方がたくさん書かれている。

他人にものを教える立場になった(なってしまった)人は本書を一度読んでみると得られるものが多いのではないかと思う。

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辞書について

辞書の選び方・使い方については、辞書の序文を読むことが大切だと説く。

辞書を上手に使うためには絶対に読む必要のある編集主幹のはしがき、編集の方針、使い方への指示は必ずしも読まれていない。そこには少しのスペースの中に編集者の血の滲むような思いが込められているのに、である。

発音について

外国語の発音を学ぶには、理想的には音声学をちゃんと勉強すると良い。ということが書いてある。

教師・辞書・発音等、本書のなかで特に後半はレビューしている私にとって知らないことが多くて、読んで大変ためになった。

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感想

  • 誰しも、外国語学習に使える時間は限られている。

  • 学習にふんだんに時間をかけるのも大事だが、どのように勉強を「しないで」おくか、「手を抜く」ためにはどうすればいいか、などの考えも大切だと知った。

  • 文法、語彙、音声それぞれの学習をわかりやすく、コンパクトに解説していて読みやすかった。著者の他の本も読んでみたい。

  • 言語学習への興味がかきたてられた一冊であった。

  • 音声学習に関してはインターネットの出現のおかげで、本書の出版当時に比べると状況はだいぶ改善したと思う。

おすすめの読者

  • 完璧主義で外国語の勉強をすすめてしまう人には、手の抜き方を教えてくれる。

  • 語学を教えている(教師)人にも具体的なアドバイスがある。

  • 著者の専攻である、チェコ語・スラブ語にも興味がある人。

まとめ

  • 語学の学習をし、上達をするにあたって大切なことを懇切に説き明かしてくれる本。

  • 文献を読むための古典語と、会話のための語学の両面について気配りをして書かれている。

  • 教える側として、学生・生徒を教えるにあたっても参考になる本。

外国語上達法 (岩波新書)

外国語上達法 (岩波新書)

読書記録:地学ノススメ ブルーバックス(鎌田浩毅 著)

著者の鎌田氏は、火山の研究者。

講談社ホームページによると、本書は、鎌田氏が

地学の「おもしろいところ」「ためになるところ」だけを一冊に詰め込んだ

本であるという。

地学履修率

現在の日本では、高校で地学を学ぶ高校生は少ない状態である。この理由は、

高校の地学には、二一世紀になってからの研究の最先端が教えられるという特徴があります。

しかし、高校で学ぶ数学や化学、生物学などが前世紀以前の成果までしか学ばないのと比べると、高校の地学では「科学研究の最先端」を高校の時点で学ぶことができる、という面白さがあるという。

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本書の内容

地学に関する話を章ごとにまとめる。

  • 地球の形の測定
  • 化石と地質学、
  • 斉一説と激変説
  • 大陸移動、プレートテクトニクス
  • 火山とマグマ
  • 大量絶滅
  • 現在の日本と地震・火山

などといったテーマが、最新の研究情勢も含めてわかりやすく解説されている。

フィールドワークの重要性

著者は、野外に出て地面や岩石を観察する、「フィールドワーク」の重要性を強調している。

「百聞は一見に如かず」という言葉どおり、事実を自分の目で確かめることが、地学では欠かせない手段です。

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また、著者の体験を振り返ってみても、次のようなことが言えるという。

第一章コラムより。

この仕事は私の初めての火山研究で、その年に日本火山学会で発表し、・・・国際学術雑誌に英文で発表しました。・・・この研究で私が一番惹かれたのは「フィールドワーク」でした。・・・山道を歩き、体を動かしていると、頭が活性化し、新たなアイデアがふつふつと湧き上がってくるのを感じました。・・・

コラム

各章のコラムが面白い。

研究を進めていく過程で、驚いたこと・著者地震が野外で研究活動をしている写真が、数多く載っている。

講談社のホームページに、コラムのテーマ一覧が載っている。

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000226651

地学専攻と就職

質問「地学で学んだことを生かせる仕事にはどんなものがありますか?」

に対する著者の答え

地学ほどたくさんの就職先がある分野はないと言っても過言ではないでしょう。(後略)

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現在高校生や大学生で、地学を専門に勉強してみようかどうか、考えている学生の方が読むとためになると思う。

最新の研究成果

20世紀の終わりになって現れてきたプルーム・テクトニクス(マントル内での物質の上下方向の運動)に関する最新の解説がある。

岩石が溶ける条件をさぐる実験的研究など、近年では技術の進歩によってさまざまな実験がおこなわれるようになっていることがわかった。

日本周辺の大型地震・火山

地学は、地震・火山といった自然災害を扱う分野でもある。

著者は、富士山噴火と南海トラフ地震に関する一般向けの本も書いている。

地震の発生時期は、

月日までのレベルで正確に予測することは、いまの技術では不可能です。

とはいうものの、大まかな予測はできるらしい。

本書の中でも、

私も、二◯四◯までには次の連動地震が確実に起きると予想しています。

と言っている。

白頭山の噴火

日本国内の火山だけではなく、北朝鮮にある「白頭山」が、もし噴火したらどうなるか、

ということがシミュレーションで説明されている。

白頭山の場合、季節によって、火山灰の飛ぶ方向が違うらしい。

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感想

  • それぞれの内容は、独立して読める。

  • 第五章「マグマのサイエンス」は、岩石の融解条件など、化学的な話があってちょっと難しかった。

  • 馴染みがない場合には理解しづらいかもしれないので、まずは気楽に自分の気に入った章をピックアップして読むとよいと思う。

おすすめの読者

  • 昔、学校のとき地学を勉強したが現在は離れている人。最近の進展を知ることができる。

  • 地学分野に進学を検討している学生。

  • 著者(鎌田氏)の火山学者としての個人的な研究体験も積極的に書いてある。研究者の日常のようなものに興味がある読者にも薦められると思う。

まとめ

  • 中学や高校で習うような地学の内容の、最新の研究成果を込めて説明してくれる本。

  • 著者の個人的な研究体験を写真をまじえて説明してくれるので親しみやすい。

  • 地学を本格的に勉強するかどうか迷っている人におすすめ。