amarillon のブログ

宇宙科学や語学に関する本の紹介をしています。

読書記録:「暗号解読」サイモン・シン 文庫版

文庫本になっている、「暗号解読」を読んだ。暗号の歴史とエピソードを重点的に詳しく書いてある本。

暗号解読(上) (新潮文庫)

暗号解読(上) (新潮文庫)

暗号解読 下巻 (新潮文庫 シ 37-3)

暗号解読 下巻 (新潮文庫 シ 37-3)

本書の内容

イギリス・スコットランドで16世紀にメアリー女王が使った暗号文の話から始まる。

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イングランドに対して反乱を起こすために暗号を使っていたが、暗号が解読されてしまい処刑されてしまうという歴史の話。

今も昔も、暗号通信を使っていると(それが弱い暗号であったとしても)ついつい安心してしまって、平文ではやりとりしないような後々に証拠になることまで通信文で送ってしまうので、盗聴されたときに言い逃れができない。

「弱い暗号化は暗号化しないよりも危険」であるという教訓が導かれる。

本書の特徴

この本では、換字暗号(平文のアルファベットを入れ替えて暗号文とするもの)の話が詳しく書かれているのが特徴だと思われる。

巻末には暗号を解読するための練習問題も載っている。

上巻では、換字暗号を強化したビジュネル暗号が現れる。

また、機械を使った暗号、ドイツで使われたエニグマ暗号と、その解読に関する話題。

チューリングが政府から迫害を受けて自殺してしまうところで上巻が終わり。

下巻はエジプト等の古代文字の解読(これも、ある種の暗号解読といえる。)

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それから、第2次世界大戦中にアメリカ軍が使った、ナヴァホ族による通信の秘匿化について。

本書でとりあげられていないこと

  • 2000年ごろの本であるので、取り上げられている題材は現在から見るとかなり古く感じる。

  • 共通鍵暗号の例として出てくるのは AES ではなく DES になっているし、暗号通貨・ブロックチェーンの話題は載っていない。

  • 量子コンピュータの話は、ベネット・ブラサールの1984年の量子暗号とか、1990年代に出た量子アルゴリズムまで軽く触れている。

ビール暗号

個人的にこれまで知らなくて、へえと思ったのは「ビール暗号」に関する記述のところ。

ja.wikipedia.org

19世紀、アメリカのあるホテルにやってきた、トーマス・ビールという名前の男性がホテルのオーナーに宝のありかが書いてあるとされる暗号文を渡した。

これが話の始まりで、1820年前後。

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その後ホテルのオーナーが解読できず、友人に事情を打ち明けたのが40年後の1960年頃。

ビール文書が一般に公開されたのがさらに20年後の1885年。

たいへん気の長い話だと思った。

変わった小説の話

また別の話題では、「煙滅」という小説が紹介されている。

原書はフランス語で e を使わずに書かれた小説だった。

日本語に翻訳されるとき、「い段」を使わずに翻訳されたらしい。どんな内容なのか興味がある。

煙滅 (フィクションの楽しみ)

煙滅 (フィクションの楽しみ)

感想

本書の量子コンピュータの解説では、「量子暗号が長い距離で使えるようになったとき、暗号の進化はそこで止まる。」と書いて終わる。

暗号のような先端技術の進歩が、果たして「止まってしまう」ということがあり得るのだろうか?ということは疑問に思った。