読書記録:暦と時間の歴史(ホルフォード・ストレブンス 著)
- 作者:Leofranc Holford-Strevens
- 発売日: 2013/09/26
- メディア: 新書
もともとは、very short introduction というオックスフォード大学出版から出ているシリーズものの本のうちの一冊らしい。
本書は世界史上でこれまでに使われてきた、年月日・時刻・週・曜日といった、時間の「制度」を中心にまとめている。
著者について
著者の Leofranc Holford Strevens 氏は、wikipedia によると「classical scholar and polymath(博学者)」だと書いてある。
記述方法
著者が古典学者なので、「この言葉はラテン語の「○○」に由来し、○○語では○○と呼ばれ・・・」という部分が至る所に出てくる。
キリスト教の復活祭の日付の決め方に関して一章を割いて説明している。
たとえば、復活祭の日付の決め方については次のような感じ。
復活祭の紀元はユダヤの過越しの祭りであり、ヘブライ語ではペサー(pesah)として、またアラム語ではパスはー(pasha)として知られている。・・・聖ヨハネの福音書によると、キリストのはりつけはニサン月一四日の日中に起こったということだ。一四日のほうが、他の三人の使徒たちによる一五日節よりも理にかなっている。・・・ キリストが日曜日に復活したことから、日曜日を毎週、祭りの曜日として祝う習慣ができる。・・・ラテン語ではルーナ・クワールタデキマ(luna quartadecima)と呼ばれたが、これは文字通りには「一四番目の月」という意味で、以下、略してルーナ一四(luna XIV)と記すことにする。ルーナ一四が見つかれば、今度はその次の日曜日を同定しなければならなかった。この計算の方法はコンピトゥスとして知られている。
この後、復活祭の日付を計算する方法と、その歴史が説明され、グレゴリウス十三世の暦改革に至る道が記される。
個人的な感想としては、古典学に詳しくない読者のために、もう少し基本のところから説明してほしいと思った。
掲載されている図
英国やヴァチカンなどの博物館に保存されている昔の文献の画像が多く載っている。
週にかわって10日制の「デカッド」を採用したフランス革命暦、ソ連の初期に採用された5日間周期、また二十世紀に提唱された世界暦についても少し解説がある。
これらの話題についてはもうちょっと詳しく説明してもよかったと思う。
余談だが、世界暦などについては次の本にも解説がある。
日本の暦 旧暦と新暦がわかる本
そのうちレビューしたい。
ローマ暦の系列
引用
今日、ほぼ至るところで知られ、用いられる暦は、ユリウス・カエサルが紀元前四六年に改革し、それを教皇グレゴリウス一三世が一五八二年に改革したローマ暦の発展型である。
というわけで、第三章から第五章までは、ローマ暦ーユリウス暦ーグレゴリオ暦の系譜について書いている。
- 続いて、第六章「その他の暦」で、
ユダヤ暦、イスラム暦、ギリシャ暦、ガリア暦、ヒンドゥー暦、イランの暦、中国暦、メソアメリカ暦
について簡単な記述が並ぶ。
- 中国暦の説明は次のような感じ。
中国の暦は太陰太陽暦であり、メトン周期と天文学的計算によって支配されている。計算は一六四四年にイエズス会士アダム・シャールが行ったのを筆頭に、これまで何度も洗練し直されてきた。一日は真夜中、最初の子(一日の一二分の一)の期間の途中ではじまる。・・・太陰暦のかたわらには、連続した二四の「太陽期間」があり、一つが太陽暦の半月に当たる その期間は太陽が十二宮の一つに入るか、その中点に達するときにはじまる。さまざまな祝祭がこうした期間と結びついていて、とりわけ「清明」節は、太陽が牡羊座の途中にあるときに祖先の墓を訪ねる祭りである。・・・
- 日本の暦については、中国暦の説明の末尾に
中国暦と似ていて、計算は各首都の経度でなされる暦が、韓国、日本、ヴェトナム、チベット(満月から計算)で現在、使われていたり、過去に使われたことがある。
という記述がある。
- 日本の元号については、次のような説明がある。
日本では、一八六八年になるまで紀元(年号)は治世と重なるものではなかった。現在は、即位年なしのシステムが使用されていて、一八七三年以降はグレゴリオ暦が採用されている。昭和元年は一九二六年一二月二六日、昭和天皇(裕仁)が即位した時から三一日まで続き、平成(現年号)元年は一九八九年一月八日から一二月三一日まで続いた。
↑「即位年なしのシステム」等、翻訳に苦労したのかなと思うところが見受けられる。
感想
西洋の暦の制度の歴史を200ページ程度にまとめた本。
内容によって、非常に細かく説明している部分(復活祭や古代のカレンダーの仕組みについて)と、大雑把な説明で終わらせているところがある(東洋の暦について)
全体的に普通の暦の本と比べてくせがある(内容が西洋キリスト教世界の暦の歴史に偏っている)。
まあとはいえ、原著の読者は英語圏の人々であろうし現在グレゴリオ暦が世界中で使われていて最も重要な暦法であるのだから、この偏り(比重)も当然と言えば当然かも知れない。
日本について書かれた場所はあまりないし、書かれている部分でもわかりやすいとは言えない。
おすすめの読者
東洋の暦ではなく、西欧の歴史にかぎって知識を得たい人。
暦用語のもとになったラテン語が併記されているので、ラテン語に詳しい人は喜びそう。
ローマ帝国の制度、キリスト教や、ユダヤ教の習慣に関する予備知識がないと中盤以降は読み進めにくいと思う。
まとめ
西洋世界の、時間や暦に関する歴史・文化的な側面についてまとめた本。
本の大きさの割に、ローマ暦→ユリウス暦→グレゴリオ暦の系列に関しては、かなり細かいことも載っている。
内容に偏りがあり、非西洋に関する記述はあまりない。
特に、中国や日本の暦(いわゆる旧暦)に関する記述はほとんどない。
翻訳に苦労していそうだ。