読書記録:ブロックチェーン ブルーバックス(岡嶋 裕史著)
ブロックチェーン 相互不信が実現する新しいセキュリティ (ブルーバックス)
- 作者:岡嶋 裕史
- 発売日: 2019/01/17
- メディア: 新書
2018年12月に書かれた本。
著者の岡嶋氏は、ITやサイバーセキュリティ関係の本を多数出版している。
「ブロックチェーン」とは、「ビットコイン」をはじめとする暗号資産を裏で支える技術的仕組みのことである。
近年では、ビットコインを下敷きにした多数の暗号通貨が発行されるなど、ブロックチェーン技術には幅広い応用が試みられている。
本書の内容
暗号資産は安全なのか、危険なのか?・・・本書は、こうした疑問に答えるために、ブロックチェーンがどう設計され、ブロックチェーンがどう設計され、どう駆動しているのかを理解しているのかを理解することを目的としている。
ビットコインでの使われ方を基本として、ブロックチェーンの使われ方を解説している。
「ハッシュ関数」、「公開鍵暗号」「マークルツリー」などを、windowsのコマンドプロンプトを使って解説している。
例えば、「ブロックチェーン」と、「分散型データベース」「winny」とのしくみの違いが次のように解説される。
分散型データベースについては、
「データは各サーバが分散して持っているものの、データの台帳はプライマリサーバが持っている」ということを意味する。・・・ブロックチェーンでは、個々のデータが台帳情報を持っているのだ。ここは決定的な違いである。
winnyについては、
winnyの場合は、各PCは台帳を持つものの、データは完全にばらばらだった。・・・これがブロックチェーンになると、すべてのPCにすべてのデータが配布される。
したがって、winnyで人気コンテンツであった「動画ファイル」などは、ブロックチェーンを使って配布するのは難しいだろうと著者が指摘する。等。
取り上げられている著名な事件
- 2014年に起きたマウントゴックス事件。
85万BTC、500億円が不正に盗難された。
当時のマウントゴックス社長、マルク・カルプレス氏はこの事件を振り返って書籍を出版している。 inu123.hatenablog.com
- 2018年1月のコインチェック事件(NEM)も取り上げられている。
ブロックチェーン技術の課題
第五章では、現在のブロックチェーン技術への批判的な観点で検討している。
現在のブロックチェーン技術には、次のような問題点がある。
マイニングの電力の無駄。
システム更新の合意をとることの難しさ。
マイニングの動機づけ(インセンティブ)設計。
などなどが、現状の課題であるとして取り上げられている。
ブロックチェーンは、コストメリットがあるが、しかし、
「すべてのシステムがブロックチェーンに置き換わっていく」といった言説は、多分に夢想的である。
本書で取り上げられていない内容
ライトニングネットワーク、スマートコントラクト、匿名化コイン、分散型金融等のトピックには触れられていない。
近年存在感を増してきているイーサリアムについては、「プルーフ・オブ・ステーク」に関する説明が少しある。
全体として、ビットコインの仕組みに的を絞った解説本だといえる。
ブロックチェーンの未来
- ブロックチェーンの未来はどうなるか。著者は、次のように予想している。
本書の最後の章のタイトルは、
最初の理念が骨抜きにされると、普及が始まる
である。著者のブロックチェーンの将来に対する見方が表れていると考えられる。
インターネット黎明・普及期について、著者は次のように述べる。
今の状況は大きな既視感を持って捉えることができる。90年代のインターネットである。インターネットも熱狂をもって迎えられた。特定少数の選良だけでなく、誰もが情報を発信する側に回れる、至る所で議論が起きて、直接民主制すら実現するかもしれない。・・・インターネットにも、すべての社会問題を解決するかのような期待がかけられた時期があった。やがてそれが、・・・多くの人々を失望させた時期へと移った。それでも・・・(インターネットは)社会のインフラになった。もはや、インターネットは代替のきかないインフラであり、人類が作った最大のシステムの1つである。
ブロックチェーン技術も、かつてのインターネットと同じように、
ブロックチェーンが社会に浸透するにつれて、このように「初期の理想」とは違う方向へ技術が書き換えられ、運用の方法に変更が加えられていくだろう。
という道をたどると考えているという。
おすすめの読者
本書はブルーバックスであり科学本なので、ビットコインの「技術的な」方面の解説をしている。例えば、ビットコインのトランザクションの構造が解説されている。
したがって取引所の利用の仕方とかは解説していないので、(コンピュータ的な仕組みには興味がないけれど、コインをお金を出して買うべきなのか?買わないべきなのか?)を考えている人には本書は向かないであろう。
コンピューターの他の分野でも使うような「ハッシュ関数」や「公開鍵暗号」の説明が大きな部分を占めているので、その辺りの知識を学びたい人におすすめ。
まとめ
ビットコインの裏側で動いているブロックチェーンという技術のしくみをわかりやすく解説した本。
取引所や相場等、ビットコイン売買で儲ける方法を記述した本ではない。
出版年2018年当時の情報に基づいている。