読書記録:重力とは何か(大栗博司 著)
重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る (幻冬舎新書)
- 作者:大栗 博司
- 発売日: 2012/05/29
- メディア: 新書
著者は大栗氏。素粒子理論の研究者。本書は2012年に書かれた。
引用
私は毎日、重力のことを考えています。
ということで、著者が重力について研究してきた結果を一般向けにまとめたのが本書である。
それ(重力)について何十年も考え続けている私は、世間から見ると、かなりの変わり者に思われるかもしれません。 ・・・たとえば子どもの学校の保護者会に顔を出したときなど、初対面の相手に「どんなお仕事を?」と聞かれて「重力の研究をしています」と答えると、まず話が続かない。「重力についてはかねがね不思議に思っていました」などと言われれば話したいことはいくらでもあるのですが、たいていはポカンとされておしまいです。
しかし著者にとって、重力について考えることは楽しく、また分からないことも沢山ある魅力的な活動である。そこで、
重力研究はおもしろいし、その意義を広く伝えたいとも思うのです。
と考えた著者は、本書を執筆するに至った。
本書の内容
現在、重力研究はニュートンとアインシュタインの時代に次ぐ「第三の黄金時代」を迎えようとしています。
本書では第一章で「重力の七不思議」として、重力のどういった面が謎に満ちているのかが説明される。
重力の何が不思議なのか?気になった人はぜひ本書を読んでほしい。
ホーキングの2大業績
車椅子の天才物理学者として有名な、ホーキング氏による 「ビッグバンの証明」「ブラックホールの情報問題の指摘」という業績について説明される。
1960年代、ロジャー・ペンローズ氏が、
どんなに形の不規則な星でも、ブラックホールになれば特異点は避けられません。
という定理を証明したことに刺激を受け、ペンローズ氏とホーキング氏は共同で研究をした。
その結果、
宇宙が一様・等方だという特殊な仮定をしなくても、一般的に特異点は避けられない。アインシュタイン理論は、必ず破綻してしまうのです。
という結果を得た。
「ブラックホールの情報問題」については、ホーキング氏は重力と量子力学を使って次のような問題点を指摘した。
ブラックホールに投げ入れられたものの情報は完全に失われてしまいます。ホーキングの計算によると、ブラックホールからの放射を・・・すべて観測しても・・・(中略)・・・情報を再現することができません。これは因果律に反している・・・
しかし近年、情報問題は超弦理論の「ホログラフィー原理」によって重力が関わらない問題になってしまい、
そしてホーキングは勝者に百科事典を贈った
という形で決着した。
本書後半では、著者自身が行ってきた超弦理論の「トポロジカルな弦理論」の成果も解説される。
私たちは、三次元空間の素粒子の性質の中に、六次元空間の距離をどうやって測っても変わらない物理量があることを見つけたのです。つまり、距離の測り方を知らなくても、ある量に関しては計算ができるようになります。・・・
これからの重力理論はどうなっていくのか?
著者は本書の最終章で、
・・・本書ではすでに確立した理論をたくさん紹介してきましたが、超弦理論は「これから」の理論です。・・・
と結んでいる。
本書の特徴
科学者の味のある「似顔絵」が書いてある。
イラスト・図表は大栗氏本人が書いているようだ。
相対性理論、量子力学、超弦理論の予言、歴史と現状が図解で説明されている。
感想
難解な素粒子と重力の理論が日常的な言葉を使って平易に説明してあり、感動しました。
超弦理論の六次元の幾何学には、まだまだ技術的に未熟な部分があるという記述が印象に残った。
重力理論はこれからどのように進展していくのだろうか。
著者は幻冬舎新書から他にも何冊か本を出されているので、読んでいきたい。
おすすめの読者
重力と素粒子論の現状に興味がある人。
アインシュタイン氏、ホーキング氏、ペンローズ氏といった著名物理学者の業績を数式なしで理解したい人。
まとめ
相対性理論・量子力学・超弦理論と重力の関係が説明してある。
歴史的エピソードと科学の内容がバランス良く織り込まれた本。