amarillon のブログ

宇宙科学や語学に関する本の紹介をしています。

読書記録:富士山噴火と南海トラフ(鎌田浩毅 著)

著者の鎌田氏は、火山の研究者。

本書は、2019年に出版された。

同じ著者の本では、以前に「火山はすごい」を紹介した。

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本書がかかれたきっかけ

著者は、「富士山噴火 ハザードマップで読み解く」という本を2007年に出した。

その後、2011年に東日本大震災が起こり、富士山を含め日本全体の地震・火山をめぐる状況が変化した。

この状況変化を受けて、著者は「富士山噴火」の内容を書き直し、本書が出版されることになった。

富士山ハザードマップ

富士山は火山であり、噴火してもおかしくない状態にある。 防災に使うための「ハザードマップ」はすでに作成され、インターネット上で公開されているという。

2004年には「富士山防災マップ」として好評され、具体的な防災の指針が示されたのである。

富士山周辺の地図がたくさん掲載されていて理解しやすかった。

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本の構成

第一部「富士山噴火で起こること」では、富士山噴火が起きたときに近隣地域に及ぶ被害について概観している。

火山灰のもたらす被害

  • 航空機の飛行が禁止され、陸上交通、コンピュータにも影響が及ぶ。

  • 人々の目や呼吸器の健康に被害を及ぼす。

火山灰だけではなく、噴石、火山弾、溶岩、火砕流、火砕サージ、泥流など、様々なものが火山から噴き出して被害を及ぼす。

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第二部「南海トラフと富士山噴火」

火山と地震は、互いにつながっている。

富士山の噴火は、次に来る巨大地震の震源と予測されている南海トラフの動向を抜きにしては語れないのである。

「山体崩壊」という現象のリスク

米国のセントヘレンズ火山では、1980年の噴火で山の形が崩れる現象を起こした。

同じ現象が富士山でも起きる可能性があるという。

富士山は昔から美しい円錐形だったのではない。山が大きく崩れ、山頂が欠けていた時期が何回もあった。とくに、富士山のように標高が高い山は上部が不安定なので、噴火を引き金として一気に崩れる傾向があるのだ。・・・

富士山が岩なだれ(岩屑なだれ)を起こすと、多くの人が被災すると予想され、また富士山の形も大きく変わる可能性があるそうだ。

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江戸時代の火山灰の話。

1707年の噴火の際に、当時の江戸で降った火山灰が保存されていた。

江戸時代に、現在の東京都千代田区で採取された火山灰が、奈良県大和郡山市の豊田家の所蔵品から発見されたのだ。・・・1707年12月16日の昼過ぎに取られたことが包み紙に書かれているのだが、これは宝永噴火の初日にあたる。・・・几帳面な武士が紙に包んできちんと保存してくれたおかげである。

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当時は関東一面に火山灰が降ったので、火山灰はどこでも手に入ったにちがいない。

それが現在では他では手に入らない貴重な科学資料となった。

21世紀の現在、日常的に目にしているものも、今から300年後には貴重な歴史資料になるのかもしれないという思いを強くした。

感想

  • 「富士山」という特定の山の特徴に絞って解説しているので、話題がしぼられていて理解しやすいと思った。

  • 火山や地震、地殻変動は地球上に住んでいるかぎり避けられない。また、地球のダイナミズムには人間の力では太刀打ちできない。

  • もし巨大火山噴火により日本社会が滅んでしまったとしたら、その後どうしていけば良いのか。考えさせられる読書であった。

おすすめの読者

  • 富士山噴火で大きな被害が予想される地域に在住の人。

  • 火山噴火したとき、都市の防災はどうすればいいのか?考えておきたい人。

まとめ

  • 富士山噴火予知の2019年現在の状況についてまとめている。

  • 富士山の噴火・南海トラフ巨大地震と噴火の連動・富士山の山体崩壊という現象について、そのリスクと防災方法を解説。