読書記録:外国語上達法(千野栄一 著)
- 作者:千野 栄一
- 発売日: 2019/09/26
- メディア: Kindle版
著者について
著者は、東京外国語大学の先生。
1932年生まれ、2002年になくなった。
チェコ語などの書物を書いている、スラブ学の学者。
本書は1986年に出版された本である。
外国語を学ぶ目的
どこまでその言語ができるようになりたいのか、学ぶ目的は何かをはっきりさせることが重要だと説く。
印象に残った部分
必要のない部分まで外国語学習に時間を割くのは、時間のむだであるからやめたほうが良いという。
数多くの外国語ができる人でも、二つあるいは三つにすぎない。
私の知っている人に一二の言語をアクティブに話せる人がいるが、このひとはそれらの言語を忘れないように絶えず時間をきめて繰り返している。・・・週に一八時間が復習にとられることになり、こうなってはもう外国語学習のドレイとしかいいようがない。
つまり、数多くの外国語を学ぶことは「無駄」であるという面もあるので、外国語は各自にとって必要な量だけやるのが良いということである。
引用
必要でない言語を単に教養のためとかいって三つも四つもやることは、人生での大きなむだ意外の何物でもない。また、本を読んで内容が理解できればいい言語を書いたり話したりできるようにするのは、もったいないむだな努力なのである。
学ぶ語彙の選択
本書では、語彙(ボキャブラリー)の学習の重要性が強調されている。
語彙を習得する上で、大事なことは「よく使う」語彙、つまり使用頻度の高い語彙を増やすということである。
最初の千語で平均六ー七◯パーセントの語が分かるようになり、このあとしだいにゆるい割合で九◯%に近づいていくのが普通である。もっとも言語によってはフランス語の話しことばのように千語で九◯パーセントを超すものもあれば、日本語のように一万語で九◯パーセントに達するような言語もある。
このように、使用頻度の高い語について優先的に記憶していくようにする。
あまり使われない言葉については「分からないときには辞書を引く」という態度で学習を進めていくことも重要だという。
語学教師をやる人のためのアドバイス
「学生に疑われないための対策」
まず、自分がその日に教えることをあらかじめよく理解しておくことと、予想される質問に備えることである。・・・手に余る質問が出た場合は正直に知らない旨を伝えて、・・・次回に答えることを約束するしかない。このようにしてつなぎとめた信頼のほうが、できないことを糊塗しようとしていい加減に答えて失う信用よりずっと大きいことを教師は肝に銘じておく必要がある。
より授業の目安は受講者の数が多く、出席がよく、学習者の数が減らないことである。とりわけ、この最後の項が大切なのはいうまでもない。・・・
など、語学以外の教科を教えるにあたっても応用がききそうな考え方がたくさん書かれている。
他人にものを教える立場になった(なってしまった)人は本書を一度読んでみると得られるものが多いのではないかと思う。
辞書について
辞書の選び方・使い方については、辞書の序文を読むことが大切だと説く。
辞書を上手に使うためには絶対に読む必要のある編集主幹のはしがき、編集の方針、使い方への指示は必ずしも読まれていない。そこには少しのスペースの中に編集者の血の滲むような思いが込められているのに、である。
発音について
外国語の発音を学ぶには、理想的には音声学をちゃんと勉強すると良い。ということが書いてある。
教師・辞書・発音等、本書のなかで特に後半はレビューしている私にとって知らないことが多くて、読んで大変ためになった。
感想
誰しも、外国語学習に使える時間は限られている。
学習にふんだんに時間をかけるのも大事だが、どのように勉強を「しないで」おくか、「手を抜く」ためにはどうすればいいか、などの考えも大切だと知った。
文法、語彙、音声それぞれの学習をわかりやすく、コンパクトに解説していて読みやすかった。著者の他の本も読んでみたい。
言語学習への興味がかきたてられた一冊であった。
音声学習に関してはインターネットの出現のおかげで、本書の出版当時に比べると状況はだいぶ改善したと思う。
おすすめの読者
完璧主義で外国語の勉強をすすめてしまう人には、手の抜き方を教えてくれる。
語学を教えている(教師)人にも具体的なアドバイスがある。
著者の専攻である、チェコ語・スラブ語にも興味がある人。
まとめ
語学の学習をし、上達をするにあたって大切なことを懇切に説き明かしてくれる本。
文献を読むための古典語と、会話のための語学の両面について気配りをして書かれている。
教える側として、学生・生徒を教えるにあたっても参考になる本。
- 作者:千野 栄一
- 発売日: 2019/09/26
- メディア: Kindle版