amarillon のブログ

宇宙科学や語学に関する本の紹介をしています。

読書記録:三つの石で地球がわかる 岩石がひもとくこの星のなりたち(藤岡換太郎 著)

2017年の本。著者は、地学に関する解説書を他にも数冊、ブルーバックスから出されている。

地球科学で現れる岩石・鉱物について大まかなことが知りたいと思い、読んでみた。

3つの石とは?

  • 本書のタイトルになっている「3つの石」とは、「橄欖岩、玄武岩、花崗岩」のことである。

  • 地球は水の惑星であるとともに、石の惑星でもある。

  • 著者はこの本を書いた理由について、次のように述べる。

私はブルーバックスで「山はどうしてできるのか」「海はどうしてできたのか」「川はどうしてできるのか」という三部作を書いています。これらには石のこともたくさん出てきます。・・・石そのものをクローズアップして書いたことがいままでありませんでした。そこで、地球史のなかで石を主役として位置づけて書いてみてはどうかと考えました。(「あとがき」より)

3つの石で地球がわかる理由

  • なぜ「3つの石で地球がわかる」と言えるかというと、地球の組成について次のようにまとめられるからである。

  • 地殻は、花崗岩と玄武岩からできている。

  • 核は、鉄とニッケルからできている。
  • マントルは、橄欖岩からできている。

すなわちこの惑星は、鉄、橄欖岩、玄武岩、花崗岩という同心円状の構造を呈しているのです。

f:id:amarillon:20210319084758p:plain

本書の構成

  • タイトルにある、3つの「かんらん岩」「玄武岩」「花崗岩」の3種類にそれぞれ1つの章を割り当てている。

  • 第4章では、岩石の化学的な話。

  • 第5章では、3種類の石がつくる地球上の様々な地形について。

  • 第6章では、地球が誕生してから最初の6億年「冥王代」に、地殻や空、海が形成されていったようすを描いている。

  • 「終章」で、堆積岩や変成岩を取り上げている。

小藤文次郎について

  • 岩石の名前には他で使わないような、珍しい漢字を使ったものが多い。閃緑岩、斑糲岩、橄欖岩、花崗岩など。

f:id:amarillon:20210319084918j:plain
小藤文次郎

  • 本書には、「岩石の日本語名を考案した人物」として、明治時代の岩石学者である小藤(ことう)文次郎が時々登場する。

  • 東京帝国大学地質学教室の初代日本人教授。

  • 島根県の生まれで、ドイツ留学した。

  • 小藤文次郎の漢字に対する感覚、教養の深さに思いを致した。

本書のレベルについて

  • 地学の一般書は火山・地震などの身近な地球現象を扱う本が多いが、本書はより科学的に「石」「岩石」「鉱物」の性質を解説した本だといえる。

  • 中盤では、化学的な説明や、図が出てくる。「共有結合」「結晶構造」など。

  • レビューしている私は、化学・鉱物をちゃんと勉強したことがないため、中盤の第4章は難しく感じた。

f:id:amarillon:20210319085051p:plain

  • 第4章以外については、世界各地の地形を例にだして写真つきで解説してくれていて、予備知識がなくても楽しく読めた。

  • 全般的に、中学理科の岩石分野を勉強した程度の経験があれば、問題なく読めるのではないかと思う。

感想・印象に残った点

「ボーエンの功罪」について

  • ノーマン・ボーエンとは、米国で1920年代に活躍した岩石学者。

f:id:amarillon:20210319085126j:plain
ノーマン・ボーエン

  • 著者は、中学地学で学習する「結晶分化」を解説するときに、次のように言う。

中学校で教えているこのような結晶分化は、きわめて単純化されたモデルです。実際には造岩鉱物の融点はマグマの組成によっても、含まれている水の量などによっても違ってきますので、造岩鉱物が晶出してくる順序はまちまちです。・・・こうした結晶分化のモデルを考えたのは、すべての岩石はただ一つの起源をもつという「本源マグマ」の考え方を提唱した、米国カーネギー地球物理学研究所のボーエンです。・・・

このようにボーエンの考えはいまでは古くなってしまった点が多々あるのですが、中学校の理科ではいまだに、この古典的ともいえる結晶分化のモデルが教えられているというわけです。

・・・しかし本書では、それらを呑み込んだうえで、あえてこのモデルを紹介することにしました。・・・本書は石に興味をもった人が初めて読む本、もしくはこれを読むことで石に興味を持っていただく本というつもりで書いていますので、厳密さよりも大づかみなイメージを大事にしたいのです。

  • 自分が中学校の地学で習った内容は、「ボーエンのモデル」という、現在では簡略化された大ざっぱな考え方に基づいていたのだと知った。中学生時代に、地学という学問の入り口を勉強していたのだなと思い、興味深かった。

海底から高山への、石の長い旅

「堆積岩」のひとつ、石灰岩の来歴について述べた最終章が印象に残った。

石灰岩は、地球史においては数奇な運命をたどっている石です。熱帯や亜熱帯の、火山島の周辺にできたものが、深い海へと沈降し、プレートによって何千キロも移動し、やがてプレートもろとも海溝へ沈み込んでいきます。ところが、プレートが大陸に衝突すると、海溝にたまった堆積物がプレートによって陸側に押しつけられて乗り上げてできる付加体に 入り込んで、ついに陸上へ顔を出し、エベレストなどの高山に押し上げられることもあれば、陸上の雨水によって新色されて鍾乳洞を形成することもあります。こうしたダイナミックな旅路を、1億年以上もかけて経てきているのです。

長い時間のなかで移動してきた石。海底・海溝・高山を旅してきた石。そうやって山を見ると、新しい感慨が得られる。

f:id:amarillon:20210319085424p:plain

  • 終章で「石が少しずつ進化をしていく可能性」についてSFチックな話題も取り上げられている。永久に変わらないと考えていた石が、変わっていくとは不思議。

おすすめの読者

  • 石・鉱物の入門的な解説を読みたい人。

  • 中学校の理科で扱う地学分野の知識が少しあれば読みやすいと思う。

  • 化学が苦手な人は、中盤を流し読みして、最初と最後の章だけ読むこともできると思う。

f:id:amarillon:20210319085503p:plain

まとめ

  • 地球の石・鉱物について解説した本。

  • とくに、橄欖岩、玄武岩、花崗岩の3つに焦点をあてて説明している。