amarillon のブログ

宇宙科学や語学に関する本の紹介をしています。

読書記録:The Gap Game

ビットコインでは、ブロック報酬(ブロックを発見するごとにマイナーに配分される報酬)が徐々に少なくなって、手数料収入の比率が増えてゆきます。このときに、以前紹介した Carlsten 氏たちの論文で述べられていたことは、マイナーがチェーンをフォークさせてゆく戦略をとる可能性があるということでした。 inu123.hatenablog.com

それに関連して、このような論文を見つけたので読んでみました。イスラエル・テクニオンの Tsabary 氏と Eyal 氏による論文です。

The Gap Game https://arxiv.org/abs/1805.05288

著者たちは、マイニングギャップの生成について調べています。マイニングギャップというのは、マイナーがブロック生成直後にマイニングをやめてしまい、ブロックチェーンのセキュリティが低下する現象のことです。ブロック報酬が少なく、ブロックごとの手数料収入がマイナーの主要なインセンティブになっている状況にあるとします。このとき、ブロック生成直後はトランザクションから得られる手数料の合計が少ないため、マイナーにとってはマイニング機械をしばらく停止したほうがマイニング代が節約できて経済的になる、というインセンティブが存在します。するとマイナーたちがブロック生成直後にマイニングをやめてしまい、ハッシュパワーが低下します。この状況をマイニングギャップと呼びます。

「The Gap Game」では、ブロック報酬はどのぐらいまで下がったときにマイニングギャップが起きるのか?ということを調べています。著者たちはマイナーたちの行動を数値シミュレーションで調べていますが、鍵となるのは、もちろん「ブロック報酬と、ブロック内の手数料の和」の比率であり、これは重要なパラメータとなります。

マイナーがマイニングの際に負担する費用は、rig にかかる費用(capital expense)と、rig を実際に運用したときにかかる費用(operational expense)に分解されます。 マイナーの戦略としては「マイニングを長時間やることによるコスト増」と、「マイニング開始時期を遅らせることによるマイニングチャンス減」の間で利益を最大化させるように行動しないといけないわけですが、rig の運用の費用によって行動が変わってくるため、戦略を分析する上で重要なパラメータとなります。

また、マイナーが全体のなかで持つハッシュパワー比率によっても、最適な戦略が変わってくることが見出されています。

著者たちは、(マイニング機械のコストや電気代など様々な状況に仮定をおいたうえで)大きなマイニングギャップが起きないための条件を導いています。論文が書かれた当時(2018年時点)ではブロック報酬 12.5 BTC, 手数料 1 ですが、これがおよそ 10 年後になると、ブロック報酬と手数料がほぼ等しくなるため、そこでギャップが起きやすくなるだろうという見積もりをしています。

==

今回読んだ文献にはマイナーの戦略に関する研究がたくさん引用されており、面白そうなのも多数あったので、今後も勉強を続けてゆきたいと考えています。