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読書記録:辞書を編む(飯間 浩明著)

辞書を編む (光文社新書)

辞書を編む (光文社新書)

著者の飯間氏は、三省堂国語辞典の編纂作業をしている。また、著者は大学で講義をする日本語学の研究者であり、国語辞典の編纂を、研究活動の中心として活動している。

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飯間氏は授業やセミナーで講演をする際、「辞書の編纂をしている」と自己紹介をするが、 中々 講演の聴衆には理解をしてもらえない。

そこで、

できるなら、十分に時間をとって、私自身の仕事について思う存分語りたい。国語辞典の編纂がどういうものかについて、多くの人に分かってもらいたい。これが、本書を書くに至った理由です。

という動機で本書が書かれた。

似たタイトルで、辞書編纂を扱った「舟を編む (光文社文庫)」という小説がある(三浦しをん著)

本書の中では、著者の飯間氏が小説「舟を編む」を読んだときの感想も少し書いてある。

本書は kindle unlimited になっているので、unlimited 会員であれば無料で読める。

本書の構成とは?

用例採集、編集会議、語釈の執筆の順番に、著者の辞書編纂作業の日常を解説していく。

編纂活動に入ったきっかけとは

著者は若者の頃から国語辞典の編纂に興味をもっていた。

たとえば、大学院に入って間もない頃、

当時、人に「あなたは将来どうするのか」と聞かれて、「国語辞典の編纂がしたい」と答えたことを覚えています。言ってしまってから、これは大それた望みだ、国語辞典なんて、大学者でもなければ、そうそう作れるものではないと、我ながらおかしく感じました。 と考えていた。

著者はその後も、辞書を作りたいという気持ちを持ち続けていくことになる。

心の内では、おもしろい仕事だ、ぜひ自分も関わりたいと考えていましたが、具体的にどうすれば関われるのか、その方法は分かりませんでした。

その後、著者は大学教師となり38歳となった。

三省堂辞書出版部の奥川氏という方に誘われたことをきっかけに、(2005年から)三省堂国語辞典の編纂に加わることになる。

国語辞典の用例採集とは?

言葉の用例を見逃さないため、著者は自宅でテレビを見るときは、基本的にすべてブルーレイディスクに録画をしているという。

ちょっと昔までは、録画をしていなかった。そのため、用例を見つけたものの、見失ってしまうことがあった。

自宅で、街中で。日常生活の中で、著者が最新の日本語用例を採集して、取捨選択しながらパソコンの中に書きためてゆくようすが描かれる。

編集会議とは?

編集会議は国語の研究者が集まって行う。三省堂国語辞典の場合には数人程度。集めた数々の言葉について、「その言葉は次の改定作業のときに新しく入れるかどうか」などを話し合う。また、収録済みの項目についても見直しを行う。

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会議の想像図。

6万ー9万語の辞書は、少人数の体制で作る。いっぽう、広辞苑や大辞林などといった20数万語規模の大きな辞典は、何百人という執筆体制で作っているそうだ。

著者が編纂委員をしている三省堂国語辞典を特徴づける「編集方針」は、2つある。

ひとつは「実例に基づいた項目を立てる」ということ。もうひとつは、「中学生にでも分かる説明を心がける」ということです。

語釈の執筆とは?

集めた言葉の解釈(説明)を執筆していく必要があり、この作業も編纂者が行う。辞書によっては、語釈を専門家が執筆する辞書もある。しかし、専門家による説明は一般向けにはわかりづらいことがあるため、三省堂国語辞典の場合には編纂者が自分の言葉で語釈を書いているという。

たとえば、「中間子」「カピバラ」といった言葉についても、編集委員が自ら調べて書いていく。

専門的な用語であっても、国語辞典の読者(小中学生でも)が読んだときに、

「要するに、そのものごとはどういうものか」を、専門書の記述は踏まえつつも、日常感覚に従って記述したい。

という意識で執筆しているという。

著者は、たとえば「カピバラ」の語釈を書くためには、動物園に出かけていくこともある。

また、「カルダモン(ハーブの一種)」の語釈を書くために、カルダモンを実際に取り寄せてみるということもした。

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温泉に入るカピバラ

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国語辞典は、どうやって作られている(編纂されている)のか気になっている人。

感想

数年に一度の改定に向けての作業を、仕事としてやり続けている著者の日常がわかった。 用例採集には手間と時間がかかっているのだ。ということがわかった。

「チョベリバという単語は、1996年頃から流行したとされていたが、用例が見つからない。」

「KYという単語が、2007年頃から流行した。」

このような事実は、その時代ごとに用例採集を 意識してやっている著者のような人がいなければわからないだろう。と思った。

まとめ

今まで、何気ない存在として見ていた辞書。その辞書の一つ一つの項目の選定に時間を捧げている人がいて、用例を集め、その用例を踏まえた語釈を1つずつ書いている人がいる。

そういうことが仕事として存在するのだと知り感動しました。