amarillon のブログ

宇宙科学や語学に関する本の紹介をしています。

読書記録:「未来国家ブータン」

高野秀行氏によるブータンへの旅行記を読みました。

ブータンは、中国とインドの間にある国家で、面積は日本の九州程度。九州の人口1200万に比べて、ブータンの人口は80万人程度。

著者の高野氏は、「新しい生物資源をブータンで探す」という使命を受けて2010年にブータンを訪問した。それと同時に、高野氏は個人的に「ブータンに伝わる「雪男」の目撃情報のデータベースを作る」という目標を持っていた。

ブータンは半鎖国国家であり、外国人が自由に行動をして調査をすることができない。事前申請をして、申請のとおりに動くことが求められる。そんな中で、雪男に関する情報をブータン各地を巡って集めてゆく。

熱帯から高山まで幅広い自然環境に恵まれたブータンでは、多様な生物が存在している。ブータンの伝統薬や伝承の中から、資源として利用できそうな生物に関する情報を探っていく。ブータン人に聞き込みをして行くなかで、毒人間と呼ばれて差別されている人々がいることを見出す。

経済的に余裕が出ると、選択肢が増えることにより葛藤が始まる。しかし、ブータンでは高い教育を受けたインテリであっても迷いなく生きている。一般的にほかの国々では、インテリ層は自国や自国の政府に対して批判的であり、政府の政策を憂えることが多い。しかしそれはブータンでは違っている。インテリであっても、自分の国が良いと思っている。

ブータンの人々には、生活の様々な局面で選択肢があるように見えて実は選択の自由がないことが多い。占い等で職業を決めてしまったりもする。しかし、それはブータンの人々にとっては自然なことであり、自由がないことに気づかない。ブータンは世界でいちばん幸せな国を標榜しているが、その理由は迷いがなく、自由に悩まないからである。

感想

世界的には、インテリ層とよばれる高い教育を受けた人は、自国の政府に対して批判的になることが多いらしい。著者の高野氏も、日本を批判的に見てブータンとの比較をしているところがいくつかある。

自主性を尊重しているように見せつつ、じつは自然な形で行動させ実質的な選択肢を与えないことで、ブータンでは皆が自由に悩むことがなく幸せになるという。そういう面はあると思うが、とはいっても、毒人間と呼ばれて差別されていると考えられる人々がそのままで良いわけでもないと思った。

ブータンでも多くの若者が都市へ移動していくという状況がある。外からやってきた人にとっては美しい伝統でも、中に住んでいる人にとってはただの迷信だと思ったりすることはありうる。

高野氏が出しているほかの本との関連もあちこちに書いてあった。奄美大島の怪物ケンモン、アフリカのムベンベ、アジア各地の「納豆」など。次はこれらの本も読み進めてみたい。