amarillon のブログ

宇宙科学や語学に関する本の紹介をしています。

読書記録:アジアの暦(岡田芳朗 著)

アジアの暦 (あじあブックス)

アジアの暦 (あじあブックス)

2002年に出版された本。

著者の岡田氏は、暦に関する著書を数多く執筆している。

本書は、

アジア、特に東アジアは暦の博物館である。

という認識のもとに、中東、インド、東南アジア、中国、朝鮮の暦とその文化的側面を解説した本である。

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あとがきによると、

筆者は東南アジアには一歩も足を運んだことがない

と書いてあった。意外だった。

本書の構成

地域ごとに特色ある暦を図つきで解説するという構成になっている。

特定の関心がある地域があるなら、探しやすいとおもう。

第一章は、暦の仕組み。

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第二章以降は、次のような内容が書かれている。

  • 中国の暦
  • 朝鮮の暦
  • 台湾の祝祭日
  • 香港の暦
  • イスラムの暦
  • イランの暦
  • インド暦(ヒンズー暦)
  • ネパールの暦
  • タイの暦
  • ラオスの暦
  • インドネシアの暦(サカ暦、ウク暦等)

中国の暦については、二十四節気それぞれに関して、1ページないし2ページ程度の解説がある。

おもしろい話題。

ベトナムでの二十四節気について。

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ベトナムでは春節(テト)に見られるように、中国の太陰太陽暦の影響が強く残っているわけであるが、元来中国暦は華北の気候が基準になっているものであるから、南国のベトナムでは季節が合わない。そのために、一九八四年に実情に合うように修正されたといわれているが、カレンダーを見るかぎりでは、どう改訂されたのか分からない。・・・ いくら中国文化の影響を受けたからといって、ベトナムに小寒、大寒、小雪、大雪というのは考えられない気象現象である。・・・恐らくベトナムの人々の大半は古来一生の間に一度も雪も霜も見たことはないであろう。それなのに、暦の上ではちゃんとそれが存在している。昔から大勢の人がこれに矛盾を感じたはずなのに、今もって暦にはこれらが載っている。

へえそんな面白いことがあるのか。確かにベトナムで雪は降らないだろうな。と思って続きを読むと、ベトナムの暦では次のような工夫がしてあるらしい。

ところで、良く見ると二十四節気のそれぞれの後にカッコ付きで、次のようなベトナム語が付けられている。・・・

寒露ーマゥト・メ 涼しくなる

小雪ーコウ・ウア 乾いて葉が枯れる

・・・ベトナム語の二十四節気は、ちょうど日本で二十四節気を「春立つ」とか「白露下る」というように和語で表現したのと同じように、自国の言葉に言い換え、ついでに自国の風土に適合するように言い替えているようである。これがあるから、本来ベトナムの風土に合っていない二十四節気が今日まで生き残れたのではあるまいか。

同じように、「月の名前の意味」を解説してくれている部分は「イスラム暦」の解説部分にもある。

イスラム暦は月の満ち欠けだけに基づく純粋太陰暦なので、一年が365日より11日ほど短い。このため何十年という時間の経過とともに日付と季節がずれていくわけだが、実は基準となる季節が過去にあったことが次のように説明されている。

イスラム暦は季節を無視して運用されるわけだから、何月が春だとか、暑いとか寒いとかいうことはないはずだが、左の頁の表のように、三月、四月は「春の月」という意味だし、五月、六月は「寒い月」という意味である。また、イスラム暦で最も話題になる九月のラマダンは「暑い月」という意味である。  こうしてみると、これらの月名はアラビア人が過去のある時期に、太陽暦か太陰太陽暦か、いずれにしてもある月がある季節に巡ってくる暦を使っていたことを物語っており、彼らが最初から季節を無視した暦を使っていたわけではないことを教えてくれる。

ラオスの暦

ラオスはベトナムの西にある内陸国。暦の点では結構おもしろい。以下の引用文中で「小暦」とあるのがラオス独特の暦で、ラオ暦とも呼ばれるものであるらしい。西暦・仏教・インドの影響を受けているもののようだ。

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ラオスでは三種類の年始と紀年法が用いられている。その一は西暦(クリッタ・サッカラー)で年始はグレゴリオ暦の一月一日である。その次は仏暦(プッタ・サッカラー)で、西暦前五四二年のブッダ入滅の年から数える。・・・第三は小暦(チュソラ・サッカラー)で、仏滅後一一八一年にカッサパによって仏教が再興された年を起源とする。・・・年は新年(ピーマイ・ラオ)から変わるが、新年は一月ではなく五月であるという不思議な暦法である。この混乱は次々に新しい暦法が採用されたために起きたものと考えられる。  さらに奇妙なのは、「ピーマイ・ラオ」の日取りは、毎年グレゴリオ暦の四月十三日〜十六日にあたっていることである。・・・「ピーマイ・ラオ」の日取りはインド暦のヴァイシャーカ月に合わせていることである。・・・

バリ島の暦

ジャワ暦、バリ島のサカ暦、プラノト・マンサ暦、バリ島のウク暦等が取り上げられている。

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バリ島の暦法で最も特色のあるものは「ウク暦」と呼ばれるもので、この暦法のいち年は二一◯年しかなく、そして、一日の週から十日の週まで十種類の週がありそれらが種々に組み合わされて、きわめて複雑な構成になっている。・・・

感想

  • 記述が全体的にわかりやすい。天文に関してはほぼ太陽と月の運動に絞って書いてある。難解な数式などは出てこない。

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  • 理科的な側面より、文化的な側面が重視されている(例えば、各国の祝日のもつ意味が紹介される。)

  • インドネシアやラオスの暦についても詳しい。バリ島の暦とかはユニーク。

おすすめの読者

  • 中東、中国、朝鮮、インド、東南アジア諸国の暦のしくみに興味がある人。

  • 細かい数字に大して興味がない読者は、第一章を軽く読み流して第二章以降で気になる地域についての文化を拾い読みをすることもできると思う。

まとめ

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  • 天体の細かい運動ではなく、文化に詳しい。

  • ラオスやバリ島等、東南アジアの暦の仕組みも解説。