読書記録:フェルマーの大定理が解けた!(足立恒雄 著)
フェルマーの大定理が解けた!―オイラーからワイルズの証明まで (ブルーバックス)
- 作者:足立 恒雄
- 発売日: 1995/06/15
- メディア: 新書
著者について
著者は足立恒雄氏。整数論と、数学史を研究している。 数学の歴史に関する一般向けの本を何冊か出されている。
本書は、「フェルマーの最終定理」について書いた本。 ワイルズ氏によって証明されたあと、 この本は1995年に書かれた。
フェルマーの大定理の詳細は下記 wikipedia リンクより。
この本が書かれたきっかけ
この本を書く以前に、著者はすでにフェルマーの最終定理に関する著書を出版していた。
- 作者:足立 恒雄
- 発売日: 2006/09/01
- メディア: 文庫
そこで、新たに出す本書では次のようなことに注意して書いたという。
・・・つまり、フェルマー問題の歴史を、最初から最後まで一貫して楕円曲線を主題として論じるのである。そうなれば、数学関係者以外にも関心を呼びつつある楕円曲線論の入門書としても重宝されるかもしれない。
著者まえがきによると、
原稿が完成して気がついてみると、書き始めてからわずか2週間しか経っていなかった
とあり、一気に書き上げたことがわかる。
想定される読み方
引用すると
本書の読み方であるが、数学を専攻する人、もっと特定して言えば、数論を専攻する学生以外は、数式にとらわれずに読まれるようお勧めする。・・・
実際、本文中には数式がたくさん出てくるが、数式の意味を理解しなくてもなぜか読み進めることができるような気がした。
数式はわりと高いレベルの物が遠慮なく出てくるが、 たとえば第三章の「曲線が非特異である」ということの説明のなかに、
偏導関数を知らない読者は無視していただいて一向にかまわない。
とあるように、数式は参考程度として読めるように設計されているようだ。
本書の特徴
数学の本だが、著者の誘導がうまいため、詳細を理解していなくても先にすすめるような気がする。
重要な数学者は、人名が太字になっている。
著者が強調したいところは、下線を引いてある。など、親切な点が見られる。
昔と今の数学
フェルマーの時代は現在と数学の記述方法が違うため、
フェルマーの時代には0はまだはっきり数とみなされていなかった
など、現在と記述方法が異なるそうである。
この時代の文献を読み解くことは大変な作業だろうなと想像をした。
フェルマーの書き込みから300年以上が経過して定理に証明が与えられたわけだが、フェルマーは自身で証明を持っていたのか?ということに関しては次のように書いている。
フェルマーが本当に「大定理」の証明を持っていたかという問題を考えてみよう。私は100パーセント、フェルマーは一時的な勘違いをしたのだという確信がある。 まず第1に、フェルマーが自分用のメモとしてしか、しかも一度だけしか結果を記していないという事実に注目すべきである。・・・フェルマーは彼らにはメルセンヌを通じて「大定理」の指数が3と4の場合を繰り返し、知らせているが、それ以上の指数については何も触れていない。これは書き込んでしばらくして、自分の誤りに気がついたということを示している。・・・ 第2に、天才的アイデアで他の人にはけっして考え付けないようなものだと本人やまわりが思っても、ほぼ同時期に、全く関係のない異国の数学者が同じアイデアで解いているという事件が数学史上頻発しているという事実に注目すべきである。・・・
本書の構成
第二章は古代ギリシャのディオファントスが著した本「算術」について。
第三章でフェルマーの生涯、フェルマーの研究と楕円曲線の関係について述べる。
第四章はフェルマーに続いた数学者 クンマーとオイラーなど。
第五章では、フェルマーの定理が証明されていくようすについて
- モーデル・ファルチングスの定理
- フライの楕円曲線
- 保型関数
- 谷山・志村・ヴェイユ予想
- ワイルズ氏によるフェルマーの定理の証明
などの概説が書いてある。
後半は理解できないところも多かったけど、数学者たちの情熱が伝わってきた。
感想
数学と積み重ねについて
フェルマーの定理の証明がいかに難しいかは、以下の著者の記述に現れている。
・・・(著者が)20年ほど前にフェルマーの大定理に関する記事を書いたことと、さらには10年前に「フェルマーの大定理」という本を出したために、しばしば「ついに解決した」という手紙を添えて「論文」が私の元に送られてくるようになった。・・・相当の数学的天分を備えた人が数多くの先人の業績の蓄積を踏まえた上で取り組むのでなければ、解けるどころか、ちょっとした貢献すらできるはずのないこうした問題に、それこそ「不惜身命」に取り組んでいる人を観るのは気の毒な気がするものである。数学というのは積み重ねがきく学問で、昔の人は解けたが今の人には解けない問題などというのは存在しない。そういう学問なのである。
「積み重ねがきく」というところに面白さを感じた。
自分の話をすると、私は大学生のときに偉い数学者の先生がクラス担任だったのだが、面談をしたときに数学の勉強について「数学は積み重ねの学問なので、どこかで理解してないとその先はわからなくなります。」という意味のことを仰っていたのが印象に残っている。
おすすめの読者
フェルマーの大定理(最終定理)が解決されていくようすを知りたい人。
人物像も取り上げられるが、数学の説明も多い。
楕円曲線を統一主題として書かれた本であるらしい。
まとめ
フェルマーの最終定理と、その周辺の数学をわかりやすく解説した本。
数式はたくさん出てくるが、飛ばして読むこともできる親切な設計がされている。