amarillon のブログ

宇宙科学や語学に関する本の紹介をしています。

読書記録:暦はエレガントな科学(石原 幸男著)

暦はエレガントな科学 二十四節気と日本人

暦はエレガントな科学 二十四節気と日本人

太陰太陽暦の基本的構造を解説した本。

この本が書かれたきっかけ。

本書の最初の部分によると、 「二十四節気は季節感と合わない」という記事が朝日新聞(2011年5月)に掲載された。

寒いのに立春、暑いのに立秋ー。中国伝来の二十四節気は、季節の移り変わりに彩りを添える言葉だが、ちょっと違和感を感じませんか?  日本気象協会は、新しい季節のことば作りを始める。(中略)2012年秋までに「日本版二十四節気」を提案する予定だ。

この記事では「節気」(太陽暦)と旧暦の日付(太陰太陽暦)の性質が混同されているので、「暦の会」に所属する筆者としては「いやあ、この記事には呆れ果てた。」という感想を持った。この事をきっかけにして、本書が作られることになった。

本書では、最初に「二十四節気」が太陽暦としての性質をもつことを説明する。立秋の日の和歌として有名な「藤原敏行」の歌を例にとって、二十四節気の性質を説明していく。

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その後日本・中国の旧暦や、十干十二支・土用・六曜などの性質をみていく。

観念的季節と自然の季節

節気は観念的季節であって、自然の季節とはちがう。日本人にとっては、学ばないと理解ができないものだ。ということを主張してる。

奈良時代の昔から、暦の上の知識としての日付と、自然の暦の間に断絶を感じてきた。ということが説明される。

執筆時期

2012年周辺の話題が多い。

  • 「2013年の旧暦を作ってみよう。」という内容もあるが、現在ではちょっと時代遅れになってしまうだろう。

  • 「近ごろは「恵方巻」というのが流行っているようだ」という内容もある。しかし2020年現在では、恵方巻の習慣は東日本も含め最近ではだいぶ広まったのではないかと思う。そういった意味で、本書はちょっと時代遅れに感じる読者もいるかもしれない。

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本書の論調について

ところどころ、主張が強い本でもある。

「「立春、立秋はどは、もっと季節感に合った時期に変えればよい」という意見があるように聞きます。これが歴史も文化も、そして科学も無視した暴論であることは、本書をここまで読んだ方にはもうお分かりでしょうが・・・」

井原西鶴について、暦に関する知識のなさを批判して

「こういう無責任な輩が風評被害をもたらすんですね。」

本居宣長について

「宣長の、神代をことさらに礼賛し、「月と太陽の運行をあわせ考えた太陰太陽暦は、すべて小うるさく、細かく、仰々しいことのすきな後世の人の考えたこと」という歴史認識には付いていけないものがありますが・・・

平安時代に天文計算を担当した貴族について

「遣唐使も廃止され、律令制が弛緩すると、暦は賀茂家の世襲となり、精緻な中国暦理論、天文理論を知る人はきわめて少なくなった。「国風文化」というと聞こえはよいが、つまるところ我流の解釈がはびこり、自然歴に基づく季節感と中国暦の科学との区別が失われてしまった。これがまさに「古今和歌集」成立の時代です。」

明治政府について

民衆の意識を無視してひとり政府ばかりが先走った。それは律令時代の「近代化」とも似ているように思われます。

という調子である。

本書の読者について

本書は、次のような人が読むとよいと思う。

  • 二十四節気とは何か?知りたい人。
  • 旧暦(太陰太陽暦)は、現在わたしたちが使っている暦(カレンダー)と何が違うのか?知りたい人。
  • 十干十二支や、大安・仏滅などについて暦の観点から理解したい人。

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本書に書いていないこと。

  • タイトルの「エレガントな科学」というのは、旧暦(太陰太陽暦)が、しっかりとした理論に基づいていたということを意味している。と思う。現代の精密な暦の作り方が書いているわけではない。

まとめ

  • 旧暦のしくみを理解するのに、役に立った。
  • ときには優しく語りかけるように、時には厳しい論調で誤解を正すように、解説してくれる本であった。