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読書記録:宮大工の人育て

宮大工の人育て (祥伝社新書 104)

宮大工の人育て (祥伝社新書 104)

  • 作者:菊池 恭二
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2008/03/25
  • メディア: 新書

ネットで、この本の一部が引用してあるのを見て、気になって読んだ本です。本を買ったのは二三年前ですが、気に入って、よく読み返しています。

著者について

著者の菊池氏は、お寺や神社を建築・改修する宮大工で、岩手県の遠野出身。中学校を卒業して弟子入りし、大工になった。その後、社寺建築に興味をもち、奈良で修行をして、宮大工として独立した。

著者の菊池氏は、高校受験に失敗したときに、父から「高校の三年より大工の三年」と言われ、技術を身につけることができる大工の見習いになった。その結果、元の同級生たちが高校を卒業する頃には著者は大工として成長しており、かつての同級生に差をつけたことを感じることになった。

私は著者とは違って高校も大学も行ったので、卒業したときは学校で色々なことを勉強して理解が進んだな、と思って達成感を感じたものですが、仕事をしている職人の世界から見るとそういう見え方もあったのか、と思い新鮮な考え方に触れた気がしました。

木の癖と人の癖について

建築で使われる木は、その種類によって違った使い方をするそうです。大工職人も、それぞれ技術に自信を持っており、プライドもあります。棟梁として大工をまとめてきちんと仕事をする時は、指図の仕方がとても大事になります。この本では、癖という言葉は、長い時間をかけて形作られた特性のような意味で使われているように思います。

文化財の改修作業について

宮大工は、何百年も前の古いお寺やお宮の改修作業を行うことがあります。古い寺社の文化財改修では、何百年の昔に作業をしていた大工の名前が木材に書いてあったりして、自分と過去の職人とを大工職人として比較をすることができるそうです。

この本に載っているのとは大分レベルの違う話ですが、私も読書をするときには古本を好んで買っています。理系の本とかで、数式の横に計算過程などの書き込みがあるのを見つけると、ちょっとうれしくなり、書き込みの内容によって自分と比較をしたりします。

宮大工の仕事の仕方について。

  • 時間どおりに来て、道具の手入れをする。
  • 途中でトイレに行くのは、給料泥棒である。

など。当たり前のようなこともあるし、自分から見ると厳しいこともある。

社寺建築は特殊な慣習が多い業界だろうと思うので、読者がこの本に書いてある事を実践しようと思ったら、自分の周囲の状況にを見てやっていく必要があると思います。以下のようなことが書かれています。

  • 修行時代に先輩に怒られても、自分は若いのだから、若いうちは怒られるのも勉強のうちと考える。
  • 棟梁として、部下がミスをしたときにどう振る舞うか。大きな失敗をした場合には逆に叱らない等の具体的なやり方。
  • 自分が棟梁のときに、下で働く職人が直接元請け等に話を通したり等で統制を乱した場合には、すぐに辞めさせた。

自分の業界ではこんな厳しい指示の仕方はできないだろうな・・・と思う部分もありますが、興味深いです。

一芸を極めるという考え方

著者は、修行時代に奈良で師事した棟梁の言葉を大事にしており、ひとつの事に集中する(一芸を極める)ことを大事にしています。一つの物事の真髄がわかると、ほかの事の真髄もわかるようになるということです。心に留めておきたい考え方だと思います。