amarillon のブログ

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読書記録:英文法を撫でる

英文法を撫でる (PHP新書)

英文法を撫でる (PHP新書)

  • 作者:渡部 昇一
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2013/03/22
  • メディア: Kindle版

1996年に出たPHP新書。

自分は以前に、同じ著者の 講談・英語の歴史 (PHP新書) を読んだことがあり、おもしろかったので本書も読んでみた。

inu123.hatenablog.com

「英文法を撫でる」は kindle unlimited 対象となっており、0 円で読めたのでラッキーだった。

感想

著者の渡部氏は英語学を研究してきて、66歳になったときに本書を書いた。著者にとって長年やってきた英語学は、「得意というよりもむしろ不得意」だという感覚があると最初のほうに書いてあったのが意外だった。「不得意な道に進み続けた」という感覚を持っているらしい。

英語だけではなく、ドイツ語・ドイツ関連の話はけっこう多い。最初の章が、ドイツ語の活用の話から始まる。まあそれで、読んでいるうちにドイツ語も勉強してみたくなった。出てくる英語・ドイツ語・フランス語には振り仮名がふって読み方を示してあり、読み手に各言語の知識を要求しないのはグッドポイントだと思う。

著者の高校時代の英語の先生(順太先生)についてのエピソードが多く書かれてある。

順太先生というのは、渡部氏が高校三年のときに英語担当でやってきた先生だった。 哲学者ベーコンのエッセイなどをテキストにしたり、最初の授業では、USA という単語の前に the はつくのか。つかないか。ということを問題にするような(文法・綿密な解釈を大事にする)授業であった。高校生の著者はそういう授業を待っていた。と感じたという。

渡部氏は、大学の英文科に入学後、順太先生をたずねたときに、「nowadays」 (最近は、最近に、という意味の単語)について「a day になぜ s がつくのかね。」と問われ、それについてずっと考えた。大学三年生のときに疑問が解消されたが、nowadays の s の意義を調べていく過程で英語の力がついた。渡部氏はのちにドイツ留学をしたとき、英語の nowadays と同じ現象がドイツ語で起きるのを見て、感動したという。

というような話がいくつか載っている。

本書の中で、リンドレー・マレー という人物が紹介されている。

en.wikipedia.org

この人は世界中で使われる英文法書をあらわした業績があるが、自分はマレーの業績よりも、その生き方のほうが気になった。

マレーはアメリカ人で、法律家だったが、独立戦争のときはロングアイランドに引きこもって生活をした。戦争後、事業に復帰し、成功して30代で引退。夏に弱かったので、アメリカを離れて夏が過ごしやすいイギリスのヨークに転居した。庭には植物がたくさんあった。隣にある女学校から請われて授業用に英文法の本を書いた。それが世界的に使われるようになった。

自分も、この時代に生きていて金持ちだったらマレーのようにしていたと思う。こういう生き方は、理想的やな。と思った。

言語学 linguistic と文献学 philological の比較

自分は言語に関係する学問がどういう分類になっているのか知らなかったので、この本を読んで言語学と文献学というのがあるということを知った。

渡部氏は文献学のほうが自身の体質によく合うという内容のことを書いている。文献学(philology)とは、文献を読むときに歴史的・比較的に「文献にあらわれた文法的なちょっとしたことから、それを書いた人の気分やら、出身地やら、社会階級やら、知識水準などなどまで、できるだけ精密に理解するように努める。」とある。

これだけの事を目指すには、大変色々なことを知っていけないと始まらないだろう。

著者の広い興味の源はこの辺りの意識にあるんやろな。と思った。

まとめ

前に読んだ、同じ著者による講談・英語の歴史 (PHP新書)と比べると、著者自身が大学生・留学して博士論文を書き上げる辺りの体験談が多かった。

本書はレベル的には早熟な中学生以上を対象としたとある。自分が中学生のときに読めたかというと微妙だと思う。英語をある程度好きで、勉強してきていないと読み切れなさそうではある。あと英語だけに関心があるというより、語学一般に興味がある読者向きの本だろうと思う。

全体的な感想としては、講談・英語の歴史 (PHP新書) と同じく、わかりやすくて面白かった。渡部氏の本はこれからもちょくちょく読んで紹介していきたい。